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コンピューターと音楽制作


 今日、コンピューターと音楽制作の結び付きは非常に密接である。プロフェッショナルな音楽制作に於いてコンピューターを使用しない現場に出会う事の方がむしろ難しいだろう。現在ではなくてはならないコンピューターだが、草創期から今のような使い方がされてきた訳ではなくその変遷を辿ってみると先人達の試行錯誤の連続が見えてくる。おそらくほとんどの人はコンピューターと音楽の繋がりはつい最近の事と思っているだろうがその歴史は意外と古い。世界初のコンピューターと言われる※ENIAC(エニアック)が発表されたのが1946年。

※1942年のABCが世界初とう説もある(Wikipedia 参照)

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The Eniac 1. U.S. Army Photo

そしてそのわずか3年後の1949年には自動作曲の研究が始まっているのだ。現在でこそまだ発展途上にある自動作曲の分野が実に半世紀以上も前、しかも音楽とコンピューターを結びつける一番最初の研究対象であった事はあまり知られていないのではないだろうか。

 その時代から30年の時を経て"打ち込み"という音楽制作方法に発展し、そこからコンピューターの音楽に対する適応性が次第に着目されるようになる。そして年を重ねるごとに音楽に関する色々な分野へ枝分かれし急速に進化していった。この10年、急成長を遂げ今やレコーディングスタンダードとなったPro Toolsはその枝分かれの中で最も枝葉の多い、言わばどんなジャンルの音楽業種にも対応し進化し続けているコンピューター音楽ツールの筆頭である。私はこの10年、Pro Toolsを使い音楽制作をしているが、もはやコンピューターで音楽制作をしているとは感じさせないひとつの完成されたツールとなりつつあるように思う。昔は高嶺の花であったそうした専門ツールも、ソフトウェア業界の努力もあり低価格化、そして安定化が進み今や誰でも手軽に持てるようになった事はとても喜ばしい事である。

Eniac Photo 出典: LINK

アシスタント修行時代に得たもの


 早いもので私が音楽制作の現場に入り込んでから30年弱の月日が経とうとしている。スタート当時はもちろんアナログ全盛期で、“デジタル”という言葉さえ知らぬ者が多い時代だった。バンド活動も休息に入った20才の時、ミキサーになりたかった私は求人のない都内のレコーディングスタジオをこまめに回り(おそらく30軒ぐらい)、ついにとある小さなレコーディングスタジオに潜り込む事に成功した。
そのスタジオにあったのは24チャンネルのアナログレコーダーと32チャンネルのミキシングコンソールを基本とした、当時としてはごく小さなスタジオであったが、初めて目の当たりにするレコーディング風景はどんな場面でもとても新鮮に映り、「いつか必ずメインのイスに座ってみせる」という意欲に燃えたものである。
 そんな時代、80年代前半に私の前に現われたのがRoland社のMC−4だ。名の通り4chのCV,Gateをコントロールして音をならすという画期的なマシンであった。


コンピューター草創期から受け継がれたこうしたマシンは計算により、"他の音源を鳴らす"事に特化していて、このマシンの登場により研究分野のコンピューター音楽から、よりポピュラーな音楽シーンへと枝葉を延ばしていく事になる。

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Roland MC-4

Photo by Robert Frost



 私がキャリアをスタートさせたこの時期は、まさに音楽制作のあり方まで変えてしまうような大きな転換期だった。


音楽をコンピューターで作る、と言う事にすごく興味を持った私は、潜り込んだスタジオのオフィスで眠っていた同じRolandのMC−8(MC4の8チャンネル版)を引っぱりだし、空き時間にシーケンスパターンを打ち込むようになっていた。これがコンピューター音楽と私との最初の出会いである。このジャンルの音楽の特筆は何と言っても有無を言わせぬ"ジャストタイミングのビート"だ。
この頃は、このいわゆる“ジャストビート”、言い換えるなら「聴き慣れない人間味のないサウンド」がリスナーに新風を巻き起こし、社会現象とまでなっていた。当時、比較的安価で手に入ったこの手のシーケンスマシンの分解能では人間味を再現する事は不可能であり、むしろすべての素材をジャストに近づけるように骨身を削ったものである。そのジャストのタイミングから繰り出される何とも無機質なサウンドにいい知れぬ新鮮味を覚えた人は少なくないだろう。この私もそんな一人で、その後定着する“打ち込みサウンド”にいつしかのめり込んでいくことになる。
こうして過ぎていった修行時代、遊びの領域を出る事がなかったわたしのコンピューター音楽も、時代とともに変化し、10年前(1998年)にPro Toolsを導入に至るのである。

忘れてはならないもの


 この商業音楽業界に於けるコンピューターミュージックの草創期を知り、現在に至る変遷を見て来た私が日々目指しているのは、『デジタルでアナログを表現する』という事。しかしそれは意識的にやっている事ではない。アナログの音質の素晴らしさ。音の躍動する感じが肌にしみ込んでいるから無意識にアナログレコーディングしていた頃の感覚に近づくよう、体が反応しているのだろう。では何故デジタルを基本としたセットに変えたのか?と聞かれたら、それは自分の目指す仕事のスタイルの行き着いた所、それがデジタルで録音(Pro Tools)する事だった、というしかない。従来のアナログレコーディングでは自分の感覚を表現するのに限界が来ていた、という事だ。しかしアナログの「いい音」もさんざん聴いてきた私にとって、双方のいい部分を合わせた音創りというのはさほど難しい事ではなかった。矛盾するようだが、デジタルの音質はアナログよりも優れていると感じる部分も多い。「ヒスノイズのない音質の良さ」「透明度」など整然としたデジタルのいい部分にアナログ的な躍動感をプラスする事によって、より完成度の高いサウンドに持って行けるのだと私は確信している。

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 そしていい部分を取り入れるのと同時に欠点も補うこと。例えばサンプリング周波数44.1KHzで記録されたCDなどは1秒間を4万4千100回に分けて音をデータ化しているので、レコードやテープのような連続記録されているメディアと比べたら密度では完全に負けてしまう。このデジタル特有の"間引き"が人間のアナログ的感覚にどうしても不自然さを与えてしまうのだ。「暖かみに欠ける」「平坦、冷たい感じ」といった感想がそれにあたるのだろうが、それを解決する手段は技術的にはサンプリングレートを上げていくしかない。しかしせっかくレートを上げて録音された素材もCDにするには結局 44.1KHz に落とすしかなく、最近主流となりつつあるダウンロード販売で使用されるデータフォーマット、MP3に至っては更にデータが間引かれ、相当音質が落ちるサウンドが市場に流れ込んでいるのが現状である。これはいい音を届けたい我々にとってとても悲しい現実だ。だからこそ、私はその"失われた空間"をできる限り取り戻す作業をしていきたい。





「魂を込めてレベルを書く」という事。アナログの持つ躍動感と質は違えど、それをする事によってサウンドに新たな躍動感と命を宿らせる事ができるのだと私は思っている。

 今、こうしてコンピューターを使い、オールデジタルのレコーディング環境で仕事している私ではあるが、これからもデジタルを感じさせないアナログ的な音創りを目指していく。結局の所、デジタルはアナログの模倣であり、デジタルテクノロジーの進化はアナログに近づく事である。その中で自分ができる事、それは己のシステムとデジタルの音を良く知り最大限のアイデアを持ってその「いい部分」を融合させる事だ。そのサウンドこそ、デジタルもアナログもない、私の目指す真のレコーディングである。
デジタルが超えるべきアナログの壁。その日はいつか必ずくる。そのタイミングを逃さぬよう、日々アンテナを延ばし自分もその進化と共にある事。それがコンピューターと音楽をしていく者にとってとても重要な事なのだ。

 私のコンピューター音楽の原点、MC-4 はもう使い方も忘れてしまったが、この先更にテクノロジーが進化し、たとえどんなにすばらしいデジタル機器に囲まれたとしても、あの何とも言えない無機質なサウンドから味わった "新鮮な感覚" を、私は決して忘れる事はできないだろう。


By M.Tobisawa

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