<Recording編>

Recording編 Part.01

レベルの話

 デジタルでは入力レベル、すなわち録音レベルが非常に重要なポイントになります。
意味合いは少し違いますが、これはアナログでも同じことが言え、その ”レベルの入れ方” で音の質が変わってしまうくらい重要なものなのです。

 分かりやすくアナログテープに録音した時の状態を例に話しましょう。
カセットレコーダーなどで経験あるかもしれませんが、レベルを小さく録音してしまった場合、普通に聴くためにその分ボリュームを上げますよね?そうすると、”テープヒスノイズ”と言われる「サー」という音も一緒に大きくなってしまいます。
これではお気に入りのサウンドにノイズ(雑音)を大きく付加した状態になって本来のサウンドを台無しにしてしまいますよね。

デジタルではノイズこそでませんが、レベルを小さく録音してしまうと、「力のない音」になってしまうので、ミックス時にもレベルを大きく録音した音よりも「ヌケない音」になってしまうのです。ノイズは混ざっていなくても「実際には悪い音である」と認識しましょう

V3_DYN初期値64.jpg 右の画像はVOCALOID3 EDITOR のコントロールパラメーター。次は、この設定値や書き出し時のアウトプットレベルが仕上がりにどう影響するのかを検証していきましょう。
1つ目の画像は新規にファイルを作成したところで、 "DYN" の値がデフォルトで "64"に設定されているという図。このDYN=ダイナミクスは "ボーカロイドの声の大きさ" に相当するもので、いわばDAWの入り口(入力レベル)とも言うべきところ。リアルのボーカリストでいう”声の大きさ”と言い換えることもできます。つまり、この値を小さいまま(デフォルトの64のまま)にして結果を書き出してしまうと、波形がとても小さくなり、声もヌケなくなってしまうので注意が必要です。
(※右の聴き比べデータの①参照)

V3_DYN100.jpg DYN値は最初 "100" ぐらいに設定し、作業を進めるといいでしょう。
また、WAVEファイルに書き出しする時には VOCALOID3 EDITOR のマスターボリュームで最適な出力レベルになるよう調整しましょう。
(※右の聴き比べデータの②参照)

レベルとビット深度

 CDは「サンプリング周波数=44.1KHz」「ビット深度=16ビット」です。サンプリング周波数は時間軸の分解能。そして、この16ビットというのが音の大きさの分解能になります。(下図参照)
最近のDAWではビット深度=32ビット/サンプルレート=192KHzの分解能を持ったものも出てきましたが、その解像度、デジタルのいいところをフルに利用しないと意味がありません。
デジタルでも、クリップする直前ギリギリまでレベルを入れて録音することが、その音源を活かすための最低限の条件になってきます。
用は分解能が多かろうが少なかろうが、レベルを歪まない程度に大きく録音するということをいつでも念頭において録音することが大切です。

波形1.jpg

  • 波形の縦が大きくなるように録音レベルをとるのですが、実際には録音してみないと波形は出てこないので、録音レベルを決める時には、レベルメーターを見てオーバーロード(一番てっぺんの赤い部分)ギリギリのところを目指すとよいでしょう。

※サンプリング周波数とビット深度については、下記サイトがとても分かりやすく説明してくれているので参照して下さい。
http://www.narui.com/atsuki/VisualAudio/pcm1.html

VOCALOID の音声データ聴き比べ

 下記音源は VOCALOID3 EDITOR の書き出し音量の差が聴こえ方にどのような影響を与えるのかをDAW上で検証した音源。
DAWのレベル、イコライザーは同じ条件にしてあるので参考までに聴き比べてみて欲しい。
①DYN=64で書き出したデータ


 ウェブでは少し解りづらいかもしれないが、①のDYN64で書き出したデータは波形も小さく、少し力のない音になっている。ちなみにDYNの最大値は「127」
そこで、②のDYN=100でマスターボリュームを+5dBにして書き出してみた。どうだろうか。

②DYN=100で VOCALOID3 EDITOR のマスター+5dB


レベルが大きくなっただけでなく、少し音のヌケが良くなり、高域の聴こえ方が変わっているのに気付きませんか?出力レベルを変えるとこれだけ音の質が変わります。

さらに③ではDAW上の "ノーマライズ”(注1) を40%かけ、小さく書き出してしまった①の音源を②と同じぐらいのレベルになるようにエディットしてみた。

③DYN=64で書き出したデータをノーマライズ(40%)し、②の音量に近づけたデータ


 好き嫌いはあると思いますが、②と③はそんなに悪くないイメージ。
このように、書き出し(アウトプット)側でやるのか、DAW(インプット)側で修正してあげるのかはその時の状況によりますが、レベルの取り方がちょっと違うだけで、音源のイメージが変わってしまうというのは分かっていただけたかと思います。
あとは楽曲との兼ね合いで、どこがベストなのか探ってみるとよいでしょう。

リアルなボーカルを録音する場合も歌の音量が一番大きくなるところをピークぎりぎりに来るように録音レベルを決めましょう。

※注1 ノーマライズ:その音源の一番音の大きい場所を検出して、そのポイントがデジタルでクリップする寸前の最大値になるようその音源全体の音量を上げること。つまり、そのトラックの音源を最大音量にするのがノーマライズです。
ちなみに最大値にするのがノーマライズ 100% で、プロツールスのオーディオスイート・プラグインでは 0〜100%までの数値で変換できる。

 ここまで、実際の音源を交えてレベルに関する話しをしてきましたが、最終的な仕上がりを最大限良くするためにはこの「録音レベル」がとても重要になるということを理解しておいて下さい。

  • 上記サンプル曲 Song : 寂恋 Lyric : Shizuki 
    • ニコニコ動画 : http://www.nicovideo.jp/watch/sm21490920
    • Mixed by : 飛澤正人

寂恋バナー.jpg

Part.1 2013年8月12日
Written by 飛澤正人

>次回 Pert2は「ゲインとフェーダー」について解説します。