分業体制と知識の底上げ

:40mPさんが、ニコニコ動画に上げるにあたって、マスタリング以外に気をつけていることってあったりします?

40:マスタリングは自分ではほとんどやってないんですよ。誰かにお願いすることが多くて。MIXは自分でやることが多いんですけれど。最近は分業体制が多くて、MIX自体も、自分でやらないというボカロPさんも増えてきました。

:パラの音源を貰って、MIXをやってくれたりする方がいますね。ただ、そういった活動をされている方が少ないので、どうしても特定の方に 集中しちゃいます。

40:分業体制は、理にかなっている部分もあると思います。「ボカロP」としては、作詞作曲してアレンジまでやって、あとはプロの方とかできる方にお願いして、自分は次の曲を考える、って言うスタンスは、創作者としては「あり」なのかなと。

:その方が早く次に行けるもんね。

40:そうなんです。ただでも心のどこかで、「全部自分でできたらいいのに」って思うところもあります。

(一同笑)

:たぶん理想はそうなんでしょうね。

:そりゃそうだよ。できれば全部自分で完結したいよ。

:何かをお願いするにしても、イメージを伝えたり、オーダーをする時でも、知っていることは悪いことではないですね。

:もちろん、40mPさんのようにメジャーで活躍されている方なら、分業も「あるべき姿」だと思うんですけれども、趣味でやってる分には全部自分でやらなきゃいけない状況があったりするので、そういったところの底上げって言うのは、あるべきなのかなと思います。

:そのために僕も色々一生懸命動いているところです。

(一同同意)

飛澤流TD術①~「ここが変だな」に敏感になろう

:音楽制作の基礎知識としてある程度はあった方がいいな、と思うんです。でもやっぱり、試行錯誤はみんな一回してみるけれど、結局わからなくなっちゃう。
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:試行錯誤は僕らでもするので、慣れの問題もあると思います。失敗しながら、自分のスタイルを築いていくまで何年もかかるものです。重要なのは、自分の中で「ここは変だな」って思うところに敏感になること。「あ。ここは何か変だな」って思ったところって、最後までずっと変なんだよ。何回か聴いて時間が経ったら良くなるってもんじゃない。それは何でダメなのか?っていうところを掘り下げていくことから、だんだん整理できて行くようになります。だから「何か変だな」が第一歩。作ってて、「何か変だな」って思うことあるでしょ?

40:ありますね。

:何かおかしいと思うから試行錯誤するんです。僕は一回迷ったらフェーダー一回全部下げちゃう。オールミュートして、キック、スネア、ハット・・・ってまずはドラムのバランスは間違っていないか、レンジはちゃんと出ているのかをチェックし直す。ドラムキットだけで聴いたらやっぱりスネアがうるさ過ぎた、とか色々ある訳です。それを一回リセットして、組み立て直す。それでディテールを聴いて、次にスピーカーで小さい音にしてバランスを取って行く。人それぞれ違うやり方があると思うけど、僕の耳では、大きい音だけだとバランスは絶対とれない。

(一同、うなずく)

:大きい音でディテールを聴いて空間とか作った後に、音を小さくして一からバランスを取る。それで、各楽器の居所が間違ってないかを決める。足りないところを調整する。そして、最終的にはもう一度でっかい音で聴いて心地よかったらOK。

飛澤流TD術②~違う環境・違う音量で聴く

色々なモニター.jpg:全部同じモニター・同じヘッドホン・同じ音量でやってると絶対にダメなんだよね。小さい音で聴くって言うのは、PCのスピーカーで聴いた時のシミュレーションであったりする。作品って言うのは色んなモニタ環境で聴かれるわけだから、そういうものに対応できるように色んな音量・色んなスピーカーで切り変えながら聴いている。最終的に落とした奴を今度はコンピュータでMP3にしてからあの(小さい)スピーカーでチェックして、次の日にもう一回そこを校正する。

40:自分は絶対チェックするのはiPhoneと純正イヤホンです。

:それが今一番聴かれている奴だしね。

40:自分も一番それ(iPhoneと純正イヤホン)で聴くので。それで心地よく聴けなかったら直して行くようにしてます。

:そういう基準があるといいよね。その基準プラス、今度はもう一段階いいモニターで聴いて作っておけば、後はバランスだけの問題だから。そこでまたiPhoneでバランスをとり直すと言うことができる。最初からこれ(iPhone)だけだと距離感がわかんないでしょ?

40:それは絶対できないですね。

:奥行きの作り方がみんな下手だな、っていうのは、たぶんそういうところ。

:前回に仰っていた「前後」の問題ですね。

:いいモニター環境で作れてないから、奥行きや前後関係がわからないんだと思う。

:ボカロ界隈の人って、住宅事情もあると思うんですけれど、ヘッドホンだけでMIXする人が、結構多いんですよ。一回はモニターで出した方がいいんでしょうか?

:僕もいま言ったように、一番最初はヘッドホンですよ。だからまずヘッドホンの中で細かい空間とか距離感とかを作って、次にスピーカーで小音量で聴いてチェックするようにすれば、住宅事情が厳しい人でも、僕と同じプロセスで出来ます。バランスをとり直した後に、最後にスピーカーで大きい音で聴けなくても、ヘッドホンで聴けばいい。

:最初に大きい音でヘッドホンでやって・・・

:前後感・距離感・定位感をいいヘッドホンで決める。スピーカーがない人は、次にヘッドホンの中で小さい音でバランスをとる。更にまた大きくして聴いてみる。その繰り返しでいいと思う。だから、自分の耳に合う基準のヘッドホンを探すことが、いい音を作る上での近道かな。

40:僕も以前ほど「音圧」「音圧」っていう風には考えなくなりました…。

:先ほども言いましたが、最近は「音圧に疲れた」って方もちょこちょこ出始めてきたんで…いい傾向なのかなって気がします。
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:これでもっとみんな中身の方に敏感になってくれればいいね。

対談日時 2014年3月28日
Flash Link Studio にて
撮影:小澤克之