<後編>「ボーカロイドの現在、そして未来」<最終回>

最初の投稿体験版

せ:ちなみに40mPさんは最初に買ったボカロはやっぱりミクですか?

40:実を言うと、ニコ動に投稿した最初の二作はDTMマガジンの体験版を使って作ったんですよ。二週間動くけど、その間プロジェクトが保存できないという縛りがあったので、とりあえず作って投稿してみて、ちょっと反応が得られるようだったら、製品版買ってみようか。そんな下心ではじめたんです。名前の由来になった「Melody in the Sky」って曲があるんですけれど、その曲とかも体験版で。
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一同:えー?!体験版で?!

40:そうなんです。だから後でCDに収録する時とかもデータがないので、一から作りなおしたんです。ベスト盤の時を入れると三回作りなおしてますね。

せ:そうするとその三回の間に、ずいぶん変えたことと言うか、差があったんでしょうか?

40:最初に作ったものを、再現しようとしてもなかなか難しかったです。その時のミクの声が、もう一回作ろうと思ってもできなくて。同じやり方で作っている筈なのに全然違う聞こえ方になったのが、作っていて面白かったです。そんなに僕はパラメータいじったりしない方なので・・・

飛:基本的には同じはずなんだけど・・・

40:そうですね。でも違いました。コンピュータも変わってます。当然MIXの設定も全然違うんですが。

:それはコンピュータの性能差かもしれないですね。:つまりコンピュータの性能で、ミクの出音が変わるってことですよ。

この6年ミク本質はかわっていない

40:僕はここ6年やってますけど、その間で(自分で)革新的に変わったな、って思うことはあまりないです。ボカロはボカロらしさのままでいいのかなって言うところがあるので。

40表現の幅が広がるのは凄くいいんですが、それよりも楽曲の音の完成度を高めて行くって言うのに力を入れたい。

:40mPさんは求めるところがしっかりしているよね。確かにボーカロイドって「あれ」でしかないから、いくら人間っぽくしようったって、できることとできないことがあるし。僕もまだ1年ぐらいしかいじってないから、この先出てくるボカロはどうなっていくか、っていうのにはこれからとても興味があるけれども。でもミクに関しては、6年前からあまり変わってない、言うのはすごく実感する。V3になっても…

40:本質はミクそのものですね。

:初投稿時って緊張しませんでしたか?

40:初投稿時は興味本位で投稿したような感じで、緊張した記憶はあまりないですね。

:もうちょっとこうすればよかったなぁ、とかは?

40:それはもう、過去の作品全部そうですね。

(一同笑い)

40:できることなら全部作りなおしてアップし直したいくらいの気持ちがありますけど。

:クリエイターってみんなそうだよね。時間があったらずっとやっちゃう。だからどこかで一回線をひいて、「この日には絶対あげよう」とかそういうモチベーションで作らないとダメだよね。

(全員大きくうなずく)

:たぶん、インスピレーションをもとに一気に作ったところまでで、終わっていいんだと思うんですよね。そこでまた次のアイデアに行った方が、たぶんいい。後は40mPさんみたいに沢山再生されていくと、それが他人のものになっていくじゃない?

40:そうですね。ニコ動がまさに、自分が作ってそれで終わりじゃなくて、誰かがカバーしてくれたり歌ってくれたり、その後の拡がりが結構大事だって思います。





「出す」ことを目標にして、あとは聴き手にまかせる

:一般的な音楽業界でもまったくそうですよ。作曲者/アーティストが作って出したら、「自分のものでなくなる」って、みなさん仰います。彼らがそういう風に言うのは、ニコ動の中で歌われたりするのと同じようなことで。世間に出たらカラオケに入ったりして、いろんな生活の中で(聴き手が)自分とオーバーラップさせたりして、別の物語になっていくじゃないですか。(ニコ動では)違うエリア内で行われてるだけで、とても似てきたって言うか。広い世界・・・音楽「業界」って言うんじゃないんだな、音楽って言う、人間が聴く(という営み)の中での商業音楽での話と、ボカロ界隈でのニコ動の中での話が、同じような気がしています。

:いまおっしゃったような話だけじゃなくて、ここ数年、商業としてのメジャーレーベルなど、市場が事実としてシュリンクして来ている中で、垣根が下がってきていると言うか、(ニコ動などとの音楽活動の)差がなくなってきているような気もするんですが。

:そうですね、敏感なアーティストの人たちは、去年くらいから初音ミクとコラボいろいろし出しているじゃないですか。どういう風に「ボカロ界」を見るかによって全く対応が違う。これを一つの新しい音楽文化としてみるならばいいんですけれど、これを「オタク文化」の延長としてみる向きがまだ少なからずある。1185_40-tobby.jpg
ボーカロイドって言うのがオタクだけのモノじゃなくて、日本の音楽文化の中でとても重要なものになっていくんじゃないかと言う予感があるんですよ。だったらそこに自ら入って行って、その底上げとともに、橋渡しをやりたいなと。そういう気持ちで(ボカロPやサイトの活動を)やり始めたところで、にいとPさんとお会いでき、そして今日40mPにもお会いできました。
やっぱり一歩踏み出すことで僕らも新しい人と出会えたり、新しいことが始まったりする。そこで何かを起こせたら・・・そういう気持ちなんです。僕は長年音楽業界の中で、メジャーシーンを見てきましたから、その中でできることも多分あると思いますし、そこでボーカロイドをもっと沢山の人に知ってほしい。「これはオタクだけのものじゃない。音楽文化なんだから、もっと音で楽しんでよ」って言う気持ちが凄くある。

「ボーカロイド」という言葉意味すること

40:「ボーカロイド」って言う言葉が、キャラクターのことを指す場合と、技術のことを指す場合と、まさに仰ったようないま起こっている文化を指す場合と、意味が人によってまちまちで、オタク文化を嫌う人たちって言うのは、往々にしてキャラクターとしてしか見てないですよね。

40でも文化(の現場)で何が起こっているのかって言うのは、踏み込んでみないとわからない部分があって。自分も最初は初音ミクってどんなものかわからなくて、ちょっと敬遠していたところもあったんですけど、実際にニコ動で聴いてみて、はじめてみたクチなんで。やっぱり曲を聴いてみたり自分で参加するやり方を見つけてはじめて「面白い!」と思えるのかなって考えてます。

:そうかもしれないね。傍から見てると、女の子のキャラがあってフィギュアがあって秋葉原でそれ売ってて、「あぁ、オタクだね」みたいな単純なくくられ方をされやすい面は確かにある。

40:中高生とかは、初音ミクのキャラクターが凄い好きで、っていうだけじゃなくて、歌い手さんとかもいる、このボカロ界隈で起きていること、今の文化が好きなんじゃないかって思います。

:女子中高生、いや女子だけじゃなくて、ボーカロイド聴いてる子たちはほとんどそうだと思うよ。もちろんキャラクター好きって子もいるだろうけれど、(ボカロ曲をカラオケで)歌っている子たちは「文化」(的な現象)を感じて、「好きだ」って言うことだと思う。

:ちょっと覗いてみたら、いろんなことがボーカロイドに関連することで行われていたりしますもんね。例えば、40mPさんが監修を務めている「虹色オーケストラ」もボーカロイドが出てくる訳ではないじゃないですか?40mPさんが作っている音楽を楽しみにしてくる人たちが…大きい会場だとどのくらいの規模でしたっけ?

40:去年の年末にやった大宮ソニックシティが2500人くらいです。

:2500人ですよね?・・・ちょっと覗いてみると、こういう規模のライブが行われていたりする訳ですよね。なので、最初の知るきっかけは(人によって様々で)どれなのかはわからないですけれど、一度(ボカロの世界を)知ってしまえば、そこで色々なことが行われていたりするので、そういう意味では中高生の方が偏見なく入ってくれるんで、もしかすると彼らの方が、ボーカロイド界隈って言うのを偏見なく楽しんでいるのかな、って感じはします。

:ただ、ミュージシャン側からのアプローチとしても、早いところではRevoさん(Sound Horizon、Linked Horizon)もいましたし、冨田勲先生とか、BUMP of Chickenが来たりとか、心ある人と言うか視野の広い人たちは、こっち(ボカロ)を見てくれている訳じゃないですか。制作者サイドと言うか、エンジニアの世界には飛澤さんがいらして、(ふたつの世界を)つなげよう、つなげようという動きが顕在化しているような気がします。